災害時も安心!医療的ケア児のための避難訓練レポート【当日打合せ・持ち出し準備編】
ひなんピング では、医療的ケアが必要な子どもとそのご家族を対象とした避難訓練を実施しました。
この記事は前回の事前準備編の続編になります。
今回は避難訓練当日の打合せの様子や、家を出発するまでの持ち出し品の準備についてレポートします。
医療的ケアが必要な子どもとそのご家族が、災害に備えてどのような準備をするべきか、また、避難時支援者に依頼すべき内容や、それを事前に伝えておく重要性について避難訓練で検証した結果をもとに詳しくお伝えします。
前回のレポート災害時も安心!医療的ケア児のための避難訓練レポート【事前準備編】もあわせてご覧ください。
1. 避難訓練の目的とその背景
私たち、ひなんピングでは、個別避難計画書としても役立つオリジナルシステム『イッツミー!』の制作や、様々なイベントや勉強会を開催することで、医療的ケアが必要な子どもとそのご家族が災害時に安心して避難できる仕組みづくりを目指してきました。
避難訓練の目的
今回の避難訓練は、ひなんピングが行ってきた活動の集大成です。
避難訓練を通して、医療的ケアが必要な子どもの緊急時の持ち出し品チェックや、避難時の注意点や問題点の確認、必要な支援は何かなど具体的に検証することを目的として実施いたしました。
過去の活動
防災キャンプ
医療的ケアが必要な子どもとそのご家族が、災害時に役立つ知識を楽しみながら学べる場として、「防災キャンプ」という名前で様々なイベントを開催してきました。
過去に開催した防災キャンプについてはぜひ、こちらをご覧ください。
『医療機器接続実証』
『発電機と蓄電池を実際に使ってみた!』
『防災士と一緒に防災バッグの中身をチェック!水って必要??』
『元陸上自衛隊看護師と一緒に防災食を作って食べてみよう!』
イッツミーの制作
当団体では、医療的ケアが必要な子どものご家族がWEB上で作成できるオリジナルシステム『イッツミー!』を制作しました。
ご家族が、スマホやパソコンから「イッツミー」に個人情報、かかりつけ医や常備薬などの情報、緊急連絡先などを入力していただくことで、個別避難計画書が自動で作成できるシステムです。
医療的ケアが必要な子どものご家族であれば、どなたでも無料でご利用いただけますのでぜひこちらからご活用ください。
避難支援者養成講座
自力で避難することが困難な医療的ケアが必要な子どもとそのご家族にとって、避難時のサポートはとても重要です。
医療的ケアが必要な子どもは、酸素ボンベや蓄電池といった医療機器や、常備薬、カテーテルなど、多くの医療物資が必要になります。そのため、ご家族だけで避難するのは大変です。
医療的ケアが必要な子どもは自力で歩行困難な場合も多く、家族が子どもの避難をサポートするとなると、家族だけで大量の荷物を運び出すのは難しいです。
そこで、医療的ケアが必要な子どもとそのご家族の避難をサポートをするため、支援者を養成する「避難支援者養成講座」を全5回で実施いたしました。
全5回にわたる避難訓練支援者養成講座の様子はこちらをご覧ください。
【第1回目】避難行動要支援者とは(在宅療養者や医ケア児の実際)
【第2回目】避難生活と減災対策、地域コミュニティの重要性
【第3回目】想定:大地震発生時における、人工呼吸器装着2歳児の準備から避難生活3日間
【第4回目】想定:風水害発生時における、人工呼吸器装着2歳児の準備から避難生活3日間
【第5回目】避難訓練マニュアル作成 想定:人工呼吸器装着2歳児の準備から避難生活3日
2 開催概要
開催日: 2024年9月26日㈭ 快晴
対象者:大石恵愛(えま)ちゃんとそのご家族
骨形成不全症 2型
肋骨が小さく肺が十分膨らまないため常に人工呼吸器が必要。
2年前の退院後、在宅療養。
母大石典子さんは、当ホームページにえまちゃんについて記事を書いてくれています。
支援者:町内会防災会の皆様(町内会長・民生委員・愛育委員・体育委員)5名
地域担当の保健師
ぱらママスタッフ 3名
協力 :指定避難場所の小学校
3. 支援者との事前確認~必要なサポートとは?~
大石さんご家族と避難訓練に参加いただいた地域の方々がお会いするのは今回が初めてでした。
地域の方から大石さんに、えまちゃんの病状や、必要なサポートについて質問がありました。
えまちゃんは、骨が折れやすく、移動させたり体に触れたりするには細心の注意を払う必要があります。
そこで、えまちゃんを抱きかかえたり、移動させたりすることは家族だけで行うことになりました。
次に、えまちゃんは常に呼吸器が必要であり、避難時には酸素ボンベ、加湿器、蓄電池などたくさんの荷物を持ち出す必要があることから、これらの避難グッズの運搬を地域の方々へお願いしたいと大石さんからお話がありました。
病状にあわせた注意点や必要なサポートなどは、いざ災害がおこってから支援者にお伝えするとなるとうまく伝わらない可能性もあります。
これらの情報を地域の方に事前にお伝えしておく必要性を皆で再認識しました。
4 避難時に必要な医療機器、何時間使用できる?
えまちゃんは、人工呼吸器、心電図モニター、加湿器、体を冷やすためのマットなど実に様々な機材が必要です。
災害時蓄電池にすべての医療機器を接続した場合、蓄電池の充電が何時間持続するかということは、えまちゃんの命を守るうえで知っておかなくてはならない大切な情報です。
オリジナルシステムイッツミーにも記入欄がありますが、必要な医療機器すべてのワット数を把握することが重要です。
大石さんは、まだどれくらいのワット数が必要か把握されていなかったため、訓練後すぐに記入するとおっしゃっていました。
また、地震や洪水などによる災害以外でも停電になることもあります。
蓄電池は、自然に放電するためこまめに充電しておき、さらに災害時慌てないためにも日頃から医療機器を接続し使用してみることをおすすめします。
5 避難場所、避難経路の確認
避難場所は洪水、土砂災害、地震など災害の種類別に避難可能か決められています。
大石さんの指定避難所である小学校はこれら3つの災害に対応していました。
また、避難所は災害の種類だけでなく、障害者などの要配慮者が円滑に支援を受けることができる福祉避難所なども開設されます。
福祉避難所について詳しく書いたこちらの記事もぜひあわせてご覧ください。
【レポート】第2回目 医療的ケア児の避難訓練支援者養成講座
また、岡山県の医師会有志が、医療的ケアを要する要配慮者のために実施している、「ぼうさいやどかり」という取り組みもあります。
こちらは、事前に登録することで、病院やクリニックなど、医療機関を避難所として利用できるものです。
こちらの記事もあわせてご覧ください。
「ぼうさいやどかり おかやま」
6 いよいよ避難準備をスタート
災害時を想定し、大石さんには、避難訓練用にあえて事前準備などせずに、避難訓練を開始していただきました。
事前に作成している避難準備リストを見ながら準備をしていきます。
避難準備リストの作成についてはぜひこちらの記事をご覧ください。
【レポート】第21回 医ケア児家族とその家族のための防災講座&体験会 開催しました!
栄養剤
えまちゃんの食事は、缶に入った栄養剤です。
大石さんは準備リストに、5日分と書いていました。
一日あたり3本ほど使うので5日分だと、約15本になります。
結構な重さになることから、とりあえず3日分の10本に変更することにしました。
薬やカテーテル
使用するカテーテルは、子供用です。
大人用のカテーテルはサイズがあわないので忘れずに持参します。
酸素ボンベ
大石さん、準備リストには普段使用しているものをいれて3本と記載していました。
当団体スタッフより、使用中の酸素ボンベの残量が少ない場合もあるから、3本では足りないのではないかという話があり、新しいものを4本持っていくことになりました。
これで約16時間持つ計算になります。
※1本あたり酸素1.5リットル流して4時間計算
服
えまちゃん、はき戻しもあり、一日に数回着替えることもあるので服は多めに準備します。
さあ、一通り準備も完了し、いざ出発というところで、民生委員の秋友さんから「おむつ持った?」と声があがりました。
大石さん「忘れてた!」ということで急いでおむつを追加。
そこで準備終了です。
7 避難グッズの事前準備が重要!
避難グッズをまとめるのにかかった時間は15分でした。
ご家庭で、事前にこれらの準備をしておけば、この時間をもっと短縮しより早く避難を開始することができます。
しかも、今回準備したのはえまちゃんのものだけです。
これに加えて大石さんや、他のご家族分の避難グッズとなると、もっと量も時間も増えます。
避難時のかばん
いざ、避難開始となったとき、驚いたのはそのものの多さです。
蓄電池に酸素ボンベ、栄養剤の缶などかなりの重さになります。
運び出す地域の方も、その重さと量に苦労されていました。
軽くて、量のかさばる服やおむつなどは、途中で落下する心配のないチャック式の大きなかばんが適しているかもしれません。
また、缶など重いものを入れるのは、小さめの丈夫なかばんにするなど、避難しやすいかばん選びも重要になってくることを皆で再認識しました。
避難グッズの準備が出来たら、えまちゃんを移動用のコットに寝かせます。
大石さんが、えまちゃんをコットに慎重に移動させます。
えまちゃん、無事にコットの中へ。
熱がこもりやすく、心拍が上昇しやすいえまちゃん。
保冷剤をガーゼに包み、体の周りに置きます。
8 地域との連携が鍵
今回の避難訓練には、地域から町内会長、民生委員、愛育委員など5名の方にご参加いただきました。
元々地域のつながりが密接な地域のようで、私たちの取組にも賛同していただきとても協力的でありがたかったです。
年に一度、地域で避難訓練を実施されているようですが、参加するのは高齢者が多く、障害をお持ちの方は軽度の方が大半で、重度の障害をお持ちの方の参加はなかったようです。
また、自力で避難できない方の避難については、訓練時に話にはあがるようですが、当事者が不参加のため何をしてあげたらよいかわからず、具体的な話は進まないままだったそうです。
民生委員の秋友さんは次のようにお話してくださいました。
「体の不自由なお子さんがおられる事は知っていて、気にはなっていましたが、ご家族がおられるし、名簿にも載っていないのにこちらから深く介入するのも失礼かと思い控えていました。この地域は、とても親切で協力的な方がとても多いので遠慮なく助けを求めてほしいです。」
避難行動要支援者名簿とは
災害時に自ら避難することが難しく、特に支援を必要とする高齢者や障がいのある人などの避難行動要支援者の方の情報を掲載した名簿です。東日本大震災の教訓として、障がいのある人、高齢者、外国人、妊産婦等の方々について、情報提供、避難、避難生活等様々な場面で対応が不十分な場面があったことを受け、 こうした方々に係る名簿の整備・活用を促進することが必要とされたことから、平成25年の災害対策基本法(昭和36年法律第223号)の改正により、 市町村が避難行動要支援者名簿を作成することが法律に位置付けられました。
参考:岡山市ホームページ
民生委員には、この避難行動要支援者名簿が配布されていますが、えまちゃんの名前は掲載されていませんでした。
医ケア児が災害時必要な支援を受けるためにも、名簿への記載は重要です。
そのためにも医療的ケアが必要な子どもとご家族にこの制度がきちんと伝わるような仕組み作りが重要です。
名簿作成から活用までの流れ
(1)市が保有している情報に基づき、対象者を抽出。
(2)市から対象者に対して、平常時から関係者へ名簿情報を提供することについての「同意書」を送付。
(3)対象者から市へ「同意書」を提出。
(4)同意していただいた方のみを掲載した「避難行動要支援者名簿」を作成し、避難支援等関係者に提供。
(5)災害時の安否確認などの避難支援や、平常時にも、見守りや、個別避難計画の作成に活用。
参考:岡山市ホームページ
まとめ
今回は、医療的ケア児の避難訓練【当日打合せ・持ち出し準備編】として、医療的ケアが必要な子どもとそのご家族が、災害に備えるためにどのような準備をするべきか、また、避難時に支援者に依頼するサポート内容や、それを事前に伝えておく重要性について避難訓練で検証した結果をもとに詳しくお伝えしました。
医療的ケアが必要な子どもとそのご家族が地域の方と日頃からコミュニケーションをとり、病状やサポートしてほしい内容などを事前に伝えておくこと、また、避難に持ち出す物品リストを作成しきちんと準備しておくことが、災害時スムーズに避難を行うために非常に重要だと、訓練を通じて皆で再認識しました。
次回の「実施編」では、実際の避難行動の様子とその中で見つかった課題について詳しく報告します。