ホンネ

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2023/11/24 井上つばき

4章4-2 椿が残してくれたもの

4章4-2 椿が残してくれたもの

宝物の手帳(最期のメッセージ)

医療的ケア児 ひなんピング

椿が旅立った日が2月4日、お通夜が5日、お葬式が6日に行われ骨壷を抱えて家に帰りました。

次の日、2月7日。

それまで椿が過ごしていた和室に、四十九日まで祭壇を置かなくてはならなかったので、祭壇を飾るためにみんなで部屋の片付けをはじめました。

いつも入院のときに持って行っていた椿のカバン 。

小学生のときにわたしの妹が椿にプレゼントしてくれたものでした。

最後の入院をして帰って来たときから、いつでも触れるように椿のベッドの柵にかけてそのままにしていていました。

食べ終わったおかしのごみや、食べたくなかった食べかけのもの、食べるのを忘れたものなどをカバンにしまうクセがあった椿。

もし、カバンの中に腐るものでも入っていたらカバンごと捨てなくてはいけなくなる。

それは悲しいから…と、ひとつずつ中身を確認して片付けていきました。

案の定、食べかけのおかしとかゴミも出てきました。

「やっぱりゴミが出てきたよ!」なんて泣き笑いながら、早めに整理してよかったという思いとカバンを使っていた椿がもういない現実にさみしさがこみ上げてきました。

そして、カバンの外ポケットに入っていたこの手帳を手に取りました。

何も書いていないだろうと思っていながらも、なんとなく確認のため後ろのページからめくってみたんです。

わたしの目に飛び込んできたのは見慣れた椿の字で…

医療的ケア児 ひなんピング

『ママ!』って…思わず「え?うそでしょ?」と言いました。

会いたい、声が聞きたいって、ずっと思いながら片付けていたら、タイムリーに椿からの呼びかけが…?

この手帳はなにも書いていなかったはずなのに…今見てるの?ここにいるの?

と、そんなわけないのに、そう思わずにはいられないわたしの心。

医療的ケア児 ひなんピング

次のページを開くと、『大好きだよ』『愛してる』…もう涙が溢れ出して止まりませんでした。

医療的ケア児 ひなんピング

『必死におうえんしてる』

『いつでも見てるよ』

医療的ケア児 ひなんピング

『天国か地獄で』

『だから』

医療的ケア児 ひなんピング

『がんばって立ち直って』

『また あそぼ?』

…ちがう。今書いたんじゃない。

ずっと前に書いてたんだ。

ママもだれも知らない間に、ひとり、自分の死を覚悟して。

ママがさみしくなるからっていろいろ考えて書き残してくれてんだ。

喧嘩した日もあった、満足に愛を伝えられない日もあった。

だけど「椿が居なくなったらママがかなしむから伝えなきゃ」ってそう思ったんだね。

自分が旅立った後、ママが立ち直れないくらい悲しむだろうってわかってたんだね。

ママがどれほど椿を想っていたのか、椿にしっかり伝わっていたことがうれしくて…

この文章を読んですぐ、ママは自分が居なくなったら立ち直れなくなるほど椿のことを深く愛してくれていたのだと、ちゃんと椿はそう感じてくれていたのだと、思えました。

椿の心がママの愛をしっかり感じてくれて、ママの愛に満たされた状態で旅立てたのなら、本当に良かった。と安堵しました。

自分が死ぬことのほうが辛くて怖いことのはずなのに、

最後の1ヶ月間、椿はそんな弱音をただの1度も吐きませんでした。

それよりもママをかなしませないように、最期の力を振り絞って必死にエールを送ってくれるなんて…椿は本当に優しくて強い子。

いつも、まもられていたのはママの方だったんだね。

椿をまもろうと、椿の人生が良いものになるように導いていこうと必死にやってきたつもりが、ここまでママを導いてくれたのは椿だったんだ。

椿を授かってからいつも一緒だった。

いつも椿のことで頭がいっぱいだった。

それだけ愛していた証拠。

椿もいつもママに愛されたくて一生懸命だったね。

もっとたくさん「ぎゅう」してあげればよかった。

次逢えたとき、椿と笑顔でたくさん遊べるように、立ち直ってみせるよ。

だから、見守っててね。

泣き崩れるわたしの隣で手帳を読んでいた旦那さんが、表からめくって「こっちにも書いてあるよ!」と教えてくれました。

医療的ケア児 ひなんピング
医療的ケア児 ひなんピング
医療的ケア児 ひなんピング
医療的ケア児 ひなんピング
医療的ケア児 ひなんピング

『中2

これはふと書こうと想ったからなんとなく書いています。

ママがこれを見たって事は椿はきっとあの世に行ってさみしくなったんだね。

ごめんね。

でもこれを読んでもドラえもんみたいな事はないんだ。

ママは事故を数回起こしましたね。こんなこというのはあれだけど、ママだけでも無事でよかった。

よく病気の事でけんか?みたいになりました。 ごめんね 椿もママが好きだった

さみしかった。 いくら死にたいと願った。

けれど そんな勇気はなかった。今思うと死ななくてよかったなって 思ってる。

ママはたくさん椿にお金・物・思い出・愛情くれましたね。

命もくれました。マロンくん・ハムスター何匹も・カメ2匹などなど。

ありがとう。本当に楽しかったし死にたくなかった

ママはもし「人を生き返らせる」カード だけど自分が死ぬと言うものがあったら使いますか?

そんな魔法やカードがあっても私を生き返らさないでください。そんなことしてもうれしくないから。

けれど やっぱり ごめんね 椿は使わずにはいられないと思う。

いまの椿がいたから 今のママがいる

いまのママがいたから 椿がいる。

そう思ってる  

   

さあさあ

椿の好きな食べものトップ10

10.ステーキ

9.フォアグラ

8.おすし

7.たたき

6.にんにく

5.うめぼし

4.男梅

3.明太子

2.ママのリゾット

1.ごはん

椿の好きな動物トップ10

10.トカゲ

9.イモリ

8.カエル

7.イルカ→ねこ?

6.しか

5.うさぎ

4.とり

3.バッタ

2.白くま

1.ハムスター』

ここで終わりです。最後は椿らしく茶目っけたっぷりに締めくくられていました。

いつ、この手帳にこのメッセージを書いてくれたのか。

どんな思いでつづったのか…。

「ママは事故を…」のところ、椿の入院が1日延びたと病棟の看護師から連絡を受け、息子と椿のものを病院へ届けに向かっている途中、家から出て間がないいつも通っている見通しのいいまっすぐな道で事故をおこしました。

最近の椿の様子を思い出したり、2年前に余命宣告を受けたときのことを思い出したり…

椿のことをいろいろと考え、このまま帰れなくなるのではないかと考えを巡らせていて、完全に前方不注意で追突事故を起こしてしまい、椿の病院へ行くのがすごく遅くなってしまったのです。

看護師さんが不安がる椿のそばについて励ましてくれていたそうですが、すごく不安な思いをしたのだと思います。

病院に着いたら「うわー!ママー!」と大きな声をあげて抱きついて泣いてくれました。

「ママが無事で良かったー!」と。

もしかしたら、待っている不安で押し潰されそうな最中に、「ママが死ぬくらいならわたしが身代わりになる!」と、そう願ったのかもしれません。

そんな内容に思えてしまいます。

この翌日に、椿の余命宣告を受けました。

わたしが事故を起こさなければ、この日に余命宣告をするつもりだったと主治医に言われました。わたしが感じていた予感は的中していたのです。

椿の覚悟はすごいものだと思います。

自分の死を目前に感じ、それを受け入れて日々を過ごして…

まだ14歳なのに。

強く優しい心を持った椿の計り知れないわたしへの愛情を、改めて感じさせられました。

わたしを想うことで、椿が強くいられたのだとしたら、椿を想うことで強くいられたわたしと同じ量の愛だったのだと痛感しました。

【関連記事】

『病気と共に生きる』もくじ

1-1 椿の軌跡 

1-2 椿のカルテ

2-1 心臓病のお話

2-2 椿の病気発覚

2-3 椿の病気解説 

2-4 グレン手術と合併症

2-5 ①フォンタン手術と術前治療

      ②ペースメーカーのおはなし

      ③フォンタン手術後の生活

2-6 ①フォンタン術後症候群

      ②はじめての余命宣告

2-7 ①難治性腹水と腸閉塞と臍ヘルニア手術

      ②病院外で生活するために

      ③「チーム椿」の結成!

2-8 ①発達障害発覚までの経緯-1

      ②発達障害発覚までの経緯-2

      ③発達障害発覚までの経緯-3

      ④発達障害発覚までの経緯-4

      ⑤発達障害と難治性腹水の治療の関係

2-9 ①発達障害とは?

      ②本人へ伝える

      ③発達障害の治療は支援?

      ④取り組んだこと

      ⑤時にはお互い休憩も大事

      ⑥もしわが子が発達障害かもしれないと思ったら…

      ⑦社会的支援について

2-10 ①命のカウントダウン

        ②余命宣告後の過ごし方

2-11 ①最期の14日間-1

        ②最期の14日間-2

        ③椿の生きた最期の1日

        ④椿、旅立ちの日

3-1 ①病気と共にある生活とは

  ②病気と共にある生活とは

  ③病気と共にある生活とは

  ④病気と共にある生活とは

  ⑤病気と共にある生活とは

3-2 ①闘病と家族の在り方

  ②闘病と家族の在り方

  ③闘病と家族の在り方

  ④闘病と家族の在り方

3-3 ①医療との関わり

  ②医療との関わり

  ③医療との関わり

  ④医療との関わり

  ⑤医療との関わり

  ⑥医療との関わり

  ⑦医療との関わり

  ⑧医療との関わり

  ⑨医療との関わり

  ⑩医療との関わり

  ⑪医療との関わり

  ⑫医療との関わり

  ⑬医療との関わり

  ⑭医療との関わり

  ⑮医療との関わり

3-4 ①社会との関わり

  ②社会との関わり

  ③社会との関わり

  ④社会との関わり

3-5 ①教育との関わり

  ②教育との関わり

  ③教育との関わり

  ④教育との関わり

  ⑤教育との関わり

  ⑥教育との関わり

  ⑦教育との関わり

  ⑧教育との関わり

  ⑨教育との関わり

  ⑩教育との関わり 

  ⑪教育との関わり

  ⑫教育との関わり

  ⑬教育との関わり

  ⑭教育との関わり

  ⑮教育との関わり

  ⑯教育との関わり

3-6 ①別の居場所

  ②別の居場所

4-1 親子のやりとり

4-2 椿が残してくれたもの

4-3 椿と共に未来へ