第2章2-7③「チーム椿」の結成!
中学生になり変化していく周りの環境と本人の心境…
良き協力者たちに恵まれて少しずつ成長していく家族。
訪問チームと連携開始
腹腔ドレナージが固定されたことにより、医療機関との関わりも柔軟になっていきました。
•自宅で治療ができるようになった
•病院への通院の回数を減らす
•今後自宅で治療が受けられる体制を整える
上記の理由で主治医から訪問診療について勧めがありました。
このときに、はじめて小児でも、訪問部門が利用できるのだということを知り、
私たちは迷うことなくふたつ返事で受け入れました。
椿が中学1年生13歳のお誕生日を迎えた2020年10月から訪問診療・訪問看護・訪問薬局の介入が開始されました。
2020.10訪問診療・訪問看護の介入開始
★訪問診療→2週間に1回診療
★訪問看護→週に2回(火・金)挿入部清潔
2週間に1回ハイゼントラ投薬
※自宅での看護が可能になったことで通院の回数が週に1回から2週間に1回に!
訪問診療、訪問看護の介入がはじまったことで、自宅で経過観察をしてもらえるようになり、
週に1回だった病院への通院が2週間に1回になりました。
自宅で過ごせる時間が増えました。
それと同時に家庭での問題について一緒に目を向けてくれる心強い存在ができました。
このころは椿の心の成長も大きく、自分の主張が強くなってきたころでした。
続く辛い治療、だんだん弱っていく自分の身体、未来への不安…たくさんの葛藤があったのだと思います。
そんな娘の心の声を、母以外の誰かに話せる機会がもてるようになり、
娘は訪問診療・看護のある日を楽しみに過ごすようになりました。
家族としても悩みを抱えていて、娘の暴走を家庭で管理することに限界を感じるようになっていたころでした。
病院では、病室のみの限られた環境での治療になりますが、
自宅に帰るとひとりの時間もあるし、水道も自由に使えるし、いろんな誘惑があります。
24時間見張っていることもできません。
腹水には塩分も漏れ出ていくので、隠れて水分と塩分の過剰摂取が頻回になっていきました。
椿を守るために自宅の水道が使える場所(リビング・洗面所とお風呂)のドアには南京錠が付けられ、
椿が家で一人で過ごすときは鍵をかけるようにしていました。
そこまでしなければ…していても悪循環の渦から抜け出せなかったのです。
ちょっとした隙に、水分や塩分を隠して持っていくのが上手になっていく椿。
そんな椿を見張るように目を光らせるようになったり、疑ってみるようになっていった家族。
塩分を取りすぎて、水分を取りすぎてむくんでしんどくなっている椿を見て、
心配と同時にだんだんうんざりする気持ちが生まれていきました。
病気が椿の体と心をむしばんでいるのだとわかっていても、
何度話し合っても繰り返される「悪行」。
約束をしても裏切られることに、椿に対して信頼を失っていきました。
椿も自分の欲求を満たすための行為で家族との間に溝がうまれていくことに苦しんでいました。
そんななか、訪問診療や訪問看護で医療従事者に実際に自宅に来てもらうことで、
家での過ごし方を共有してもらうことができたり、学校での過ごし方の相談など、
リアルタイムな悩みを共有することができるようになりました。
それは、娘にとっても家族にとっても病気の管理だけではなく、
心の管理も一緒にしてもらえるきっかけになりました。
心強い協力者たちが増えたことにより、少しずつ良い方向に進んでいきました。
母の頭の中の葛藤『正解は?』
このころの私の頭の中にはいつも『どうするのが正解なのか?』という議題がありました。
たとえ病気が治らなくても、進行を止める、進行を遅らせるために
健全な生活(水分量を守る、塩分は基準値内で摂取する、学校へ行って友達と過ごす)を送ってほしい。
椿は辛い治療も学校生活も十分頑張っているのは理解している。
でも椿の好きな(お茶をたらふく飲みたい!塩分をたくさん取りたい!学校へ行かずだらだら動画見て過ごしたい)
ようにはさせてあげられない。
それは椿の身体を蝕む行為。
病院の先生との決まりを守らなくては。
と、「病気が悪化しないように」「病気と向き合えるように」「椿が将来困らないように」ばかりが頭の中にありました。
「塩分や水分にとらわれず規則正しい生活を送らせたい」
「学校へ行って友達と過ごす時間を大切にしてほしい」
と学校に通わすことに必死になっていたり、病気を進行させないために親としてできる塩分・水分の管理の
「治療」に専念しすぎて、「椿の本心」を見る余裕がありませんでした。
椿の人生の『正解』はきっと椿の中にあるのに。
目の前のことよりも先のことを見つめていました。
私は「椿はこれから先も生きるんだ」と信じていたのです。
でも、病気の進行は椿の行為と比例して少しずつ確実に悪い方へ進んでいきました。
ヘモグロビン値維持のため12月から赤血球製剤輸血開始
小児外科医と連携して完成形に
小学6年生の終わりから中学2年生になる頃までの約1年間がんばって管理していた
ドレーン留置の挿入部付近の皮膚は、度重なる処置で痛み、挿入部もグスグスになり、
そこから腹水の漏れがひどくなっていきました。
服の下はこんな状態で、挿入部を脱脂綿とテープできつく圧迫し、
それでも漏れ出てくる腹水をおむつシートで受けるしかない状態になるまでがんばっていました。
腹水の漏れを圧迫するためのテープでテープかぶれがおきて薄皮が傷んできたり、
腹水が抜けすぎてしんどくなってしまったり…とても普通の生活ができないレベルになっていました。
それを受けて、前回の臍ヘルニア手術の時からお世話になっていた小児外科医の協力で、
ブロビアックカテーテルを腹部に挿入するという前代未聞の処置に挑戦することになりました。
(ブロビアックカテーテルは通常、点滴留置に使われるもの)
ブロビアックカテーテルには挿入部分の先に皮膚と癒着して固定される箇所があり、
外科医の思惑通りそれが上手く癒着してくれました。
このブロビアックカテーテルが定着してくれたことにより、それまで不安定だったものが安定に変わりました。
「椿ちゃんにとっての最善はどれなのか」を医療チームが試行錯誤してくれ、
新しい道を作り、挑み続けてくれることに感謝ばかりでした。
グローションカテーテルの挿入
蛋白漏出性胃腸症を発症して腹水を抜き始めたころから約3年間、
自分の体内循環では足りなくなってしまう成分を補充してもらって繋いできた命。
痩せて細くなってしまった腕と何度も繰り返す排液と補充により傷んでしまった血管に
点滴が上手く入らないことが増えていきました。
一度の入院で1日6回以上も針を刺し直すこともあり、辛くて泣くことが増えました。
少しでもストレスなく安定した補充が出来るように8月にグローションカテーテルを挿入しました。
“◎グローションカテーテル(PICC)
<PICC(末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル)>
腕から挿入する中心静脈カテーテルをPICC(ピック)と呼びます。
心臓付近の静脈は腕の静脈に比べて太く、また血液の流れも多いので薬剤がすぐに薄まり、
刺激性のある抗がん剤でも影響を受けにくい投与方法と言われています。
腕から簡単に挿入できるため安全性に優れ、感染を起こしにくいなどの特徴があります。”
メディ助より引用
皮膚が弱い娘の腕は痒みやテープ被れが酷くなり、1週間に1回のテープ交換のときに泣き叫ぶ日もありました。
でも、命のルートを守るために頑張りました。
椿は生きるために、この短期間で何度も処置を乗り越えました。
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③「チーム椿」の結成!
2-8 ①発達障害発覚までの経緯-1
2-9 ①発達障害とは?
2-10 ①命のカウントダウン
2-11 ①最期の14日間-1