第2章2-11①最期の14日間-1
人は「産まれて初めて」を経験する様に
「1番最期」を経験していなくなる
最初に笑った日があるように
最期に笑った日がやってくる
最初に食べた日があるように
最期に食べた日がやってくる
最初に抱きしめた日があるように
最期に抱きしめた日がやってくる
願っても戻れない
ここからは、娘が懸命に生きた最期の日々を、一緒に振り返ってください。
1月23日 ジャンキーなポテトと親友
5歳頃からの仲良しの親友が遊びに来てくれて、自分で腕をふるっておもてなし。
ジャンキーなポテト(塩コショウと鶏ガラ味)をつまみながら久しぶりに「中学生らしく」楽しそうに話す娘を見ることができて、来てくれたお友達と連れてきてくれたお母さんに感謝しました。
「また来るね!」と次回2月6日に約束をしました。
親友とお話をした最期の日になりました。
24日 じいちゃんと漬けマグロ丼
おじいちゃんが来てくれて、本当はお寿司屋さんに大好きなお寿司を食べに行きたかったけど、椿の体調的に外出は難しそうだったので断念。
椿に丼丸(お持ち帰りの海鮮丼)をリクエストされ、近くのチェーン店を探しみんなで買いに行きました。
漬けマグロ丼を買って帰ると「わぁー!」ととても嬉しそうな笑顔を見せてくれ、半分くらいをペロッと食べました。
その後、椿はお昼寝タイム。
椿が眠っている間に、少し遅くなった初詣を足早に済ませ、お守りを買って帰りました。
残された時間が少しでも椿にとって幸せな時間になってくれるよう願いを込めて「幸せ守り」をお土産に。
おじいちゃんと会った最期の日になりました。
25日 低空飛行運転中
訪問チームの訪問の日。
訪問診療、訪問看護でタイミングを合わせて時間が被るように来てくれました。
いつもより人数も多くにぎやかで、椿も嬉しそうでした。
でも、体力が保たないので少しニッコリ笑顔で嬉しさを表現したら、眼をつむってうなずきながら会話に参加していました。
この時、訪問診療の先生に「これまでたくさん頑張ってきたから今は低空飛行で運転中で、からだの限界がきたら、椿ちゃんのいいところで着地します。それがいつなのかは椿ちゃん次第だけど、来週か再来週か…近いところにあると思っていて下さい。」と教えていただきました。
自力で立ち歩くことは難しくなってきて移動は抱っこでするようになっていました。
赤ちゃんの頃に返ったみたいに優しく抱きしめて移動する日々でした。
26日 パパとオムライス
以前から父親(実父)とケーキを一緒に作る約束をしていました。
父親の家に行くと気を遣うところもあるし、自分のからだがしんどいのもあって、前夜に「やっぱり行かない」と言いました。
でも私は「もう来週には起き上がれないくらいしんどくなってるかもしれない。行くなら今日しかないよ。パパに逢ってきてあげて。」と話しました。
椿も納得し、予定通り実父の自宅まで送り届けました。
車からの移動も優しく抱きかかえて、事前に準備してもらっていたお布団に寝かせて、私は仕事に向かいました。
もう起き上がるのもしんどくなっていたこともあり、ふたりで相談してケーキを作るのはやめて、椿がリクエストしたオムライスを父親が作り、昼食にたくさん食べたそうです。
朝食を抜いてしっかり食べる準備をして行った椿。
迎えに行くと帰りの車の中で「パパのオムライスめっっっちゃおいしかったんよ!」と嬉しそうに笑顔を見せてくれ、『今日、逢えて良かった』と改めて思いました。
その日が実父と過ごした最期の日になりました。
28日と29日 病院とハムスターハウス
予定していた入院日。
車のシートを倒して椿を寝かせて病院に向かいました。
いつもなら耳にイヤホンを付け、お気に入りの音楽を聴いて歌って過ごすけど、この日は目をつぶって静かに省エネで過ごす椿。
血圧80台、血中酸素80%台、椿にしては良い値なのにしんどそう。
病院に着いて採血をしてもらった結果、腎機能の数値クレアチンは4.25(正常値0.46-0.79)とまた悪くなっていました。
点滴でいつものアルブミン、グロブリン、輸血をしてもらって29日は午前中の退院で、早めの帰宅ができました。
椿も補充直後ということもあって、少し座って過ごせそうだったので、以前から作りたいと言って準備をしていたハムスターハウスを一緒に作ることができました。
その制作動画が椿のYouTubeチャンネル(椿チャンネル)最期の投稿になりました。
30日 チャーハンとかねふくの辛子明太子
朝、目が覚めると夜中に椿から送られたラインが届いていました。
【今日したい事】と題されていて、朝ごはん、昼ごはん、作りたい動画などをシェアしてくれていました。
椿が起きてきたのが10時頃だったこともあり、「今日作りたい朝ごはん」は飛ばして…「今日作りたいお昼ごはん」のチャーハンを起きてすぐ自分で作り、ブランチとして食べました。
その直後、「寒気がする」と言って転がった椿は顔色が悪く紫になっていて、すぐに毛布や暖房で温かくしました。
でも、からだを触るとそこまで冷たくはなっていませんでした。
「ベッドに行く?」と聞くと「嫌だ、ここにいる」と言って、またリビングのこたつで休みました。
この日は私の親友が、椿のために大好物のかねふくの辛子明太子を買ってきてくれる約束になっていたので、よっぽど楽しみにしていたのでしょう。
お昼すぎに来てくれた親友から待ち望んだかねふくの辛子明太子と可愛らしい指輪をプレゼントしてもらった椿は、ずっと横になったまま起き上がれないくらいのしんどさながら、満面の笑みで感謝を伝えていました。
椿の笑顔の写真はこれが最期になりました。
そして、あんなに楽しみにしていた、親友が持って来てくれたかねふくの辛子明太子は一口も食べることはありませんでした。
この日は珍しく椿から「楓くん(弟)一緒に寝よ?」と誘い、隣にお布団を敷き、きょうだい仲良く一緒に寝ました。
31日 穴子の天ぷらとおもちゃ王国と弟
朝起きてやっぱりしんどさはあったけど、椿が先週から「朝市に行きたい!」と言っていたので、思い切って朝市に行きました。
新鮮な魚と野菜が手に入る、よく家族やおじいちゃんと行く朝市です。
椿のお気に入りは、注文してから揚げてくれる衣サックサクの穴子の天ぷら。
車で待っている椿にさっそく天ぷらを渡すと「かりっ」と音をさせながらおいしそうに、幸せそうに食べました。
「次はどこ行きたい?」と聞くと「おもちゃ王国!」と言ったので「よし、行くぞー!」と張り切って行ったのですが、リニューアルメンテナンス中で長期閉園でした。
きっとコロナ禍だから集客も無く閉園していたのでしょう。
小さな頃から何度も行ったおもちゃ王国。
この歳になっても大好きなのは「思い出がたくさんあるから」と「乗り物の身長制限にクリアしていて自由に遊べるから」。
この日に行けたとしても乗り物にはもう乗れなかったかもしれないけど、最期にもう一度、行きたかったね…。
椿の大好きなジェットコースター、ゴーカート、一緒に乗りたかったな…。
お昼ごはんは家に帰って大好物の『セブンイレブンのカップ麺、一風堂』を食べたいと言った椿。
「帰りの道に一風堂があるからお店で食べる?」と提案すると喜んで二つ返事をしたので、お店で食べることになりました。
着いたのはお昼どき。
込み合う店内で、抱っこするには大きな子どもを人前で抱っこしながら
『何度も抱っこしたけど、あと何回抱っこできるかな…』と考えていました。
一風堂のラーメンが椿の最期の外食になりました。
この日の帰りに椿が「病院に連れて行って」と言いました。
「明日、訪問診療の先生が来てくれるから相談しよう」と言って家に帰りました。
そして、この日も「一緒に寝たい」と言うので楓くんと一緒に寝ました。
楓くんが産まれてから一緒に寝ている時は気がついたら椿にくっついて寝ていた楓くん。
椿も安心したのかぐっすり眠っていました。
きょうだいで仲良く寝た最期の日になりました。
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