4章4-1 親子のやりとり
思い出の手紙
中学2年生の夏休み、『14歳になる子どもへ親からエールの手紙を送る』宿題が出されたときに、わたしが椿に書いた手紙を紹介します。
このころは発達障害の発覚もまだで、水分制限などの病気によるあらゆる制限に苦しみ、日々闘いながら過ごしていて、気持ちがすれ違うことが続いていました。
わたし自身、椿とどう向き合って、どう伝えれば良い方向へ向かうのかわからなくなって疲れきっていたころです。
だから、この宿題を通して椿にわたしの気持ちを伝えて、環境をリセットするには良い時間かもしれないと思い、椿の心に届くように思いを込めて書きました。
『14歳になる椿へ
椿は今幸せですか?楽しいですか?
心臓病を抱えて産まれてきた椿は、これまで何度も手術をして、辛い治療、しんどい思いをたくさんしてきましたね。
たくさんの涙を流しながら、弱音を吐きながら踏ん張って頑張って今日まで生きてきた椿は本当に強い!ママは椿を誇りに想うよ。
ママは、椿と一緒に病気と闘っていく中で、母として、人として、強く生きることが出来ました。今も椿と過ごす日々は学びの毎日です。
たくさんのことに気づかせてくれてありがとう。
ママの子どもで居てくれてありがとう。
今、一緒に生きているこの日に感謝しながら、椿のこれからの人生、椿が椿らしく輝ける、素晴らしいものになるよう、心から願っています。
自分を信じて、自信を持って、自分の選んだ道をしっかり生きてください。
PS.忘れないでください。ママのお腹の中に椿の命が宿り、育ってくれて、産まれてきてくれて…お腹の中にいた時から今も、あなたは大切な存在です。
母より』
この手紙を教室で読んだ椿は、ひとり号泣して保健室に行ったそうです。
養護の先生が「なんて書いてあったの?」と聞いても口を閉ざして教えなかったそうです。
そして、この親から子へ向けた応援の手紙の返事を、子どもたちが参観日にみんなの前で発表する予定でした。
椿は参観日にむけて教室でともだち相手に何度か練習していたそうですが、先生からの説得も、わたしからの説得にも応じず、結局出席せず参観日はお休みしました。
読まれることのなかった、椿がわたしに書いた手紙…
10月ごろに学校側から返却されました。
迎えに行った車の中で雑に「ん。」と渡してきました。
わたしは「学校のみんなは授業で他のお母さん達もいる前で発表したから、椿も家族の前で読んでくれたら受け取る!」と伝え、そのときは受け取らず、椿が読んでくれる日を待ちました。
そして、それから少し経ったころ、余命宣告を受けて数日経った1月7日。
「今日なら読んでもいいよ。でも、ママだけね。」と、椿が言いました。
『じゃあ動画撮らせて。』と、録画の了承を得て、【大好きなママへ】を読んでもらいました。
『大好きなママへ
ママは自分の1番に産まれて来た子供が、心臓病でよかった?
椿は赤ちゃんの時とかときどき病院に入院してた。
そのおかげで、「自分よりしんどい子がたくさんいる」と知り「その子のためにも外で椿は、たくさんの物を見て、楽しもう。」と思った。
だから、椿は一人の人として しんどいけど、心臓病である事によろこびやほこりを持ってるから ママは自分を責めたり、たくさん椿のために悩んでるかもしれないけど、責めなくていいよ。
それよりママは自分の事を考えてほしい。
ママにあたったりして苦しめてごめんね。
椿が楽しめるように今までいろんな楽しめるようにしてくれて本当にありがとう。
そのおかげで、とても楽しかったよ。
椿は、「ありがとう」や「ごめんなさい」を素直になかなか言えないけど今までの分をこめて、この手紙で伝えるね。
伝わるかどうか分からないけど、「今までありがとう」と「たくさんごめんなさい」
そして、まだ言わなきゃいけない事が残ってる。
「これからも、いろいろとよろしくお願いします。」
今までもこれからも、やさしいママが大好きだよ。
椿のママでいてくれて、ありがとう。
14さいの椿より』
わたしは椿の声を聴きながら、椿は一生懸命読みながら、2人で号泣していました。
水分管理、塩分問題、お薬のこと、学校のこと、生活習慣のこと…いろんなことでたくさんぶつかった2年間。
大切だから何度でもぶつかることが必要だったんだよね。
辛い時間だったね。
でも、ずっと、お互いに大好きだったよね。大切だったよね。
この手紙を、このとき椿に渡してもらえて良かった。
椿に読んでもらえて、本当にうれしかったよ。
この手紙はママの宝物。椿、ありがとう。
このとき撮った動画を、椿の葬儀のあいさつのときに「椿の最期の言葉」として、参列してくれた方にマイクを通して聴いてもらいました。
そして、葬儀が終わったあと、わたしは『椿が残してくれたこの言葉をみんなに伝えなければ!』と、ひとりでも多くの方に聴いてほしくて、必死に動画を編集していました。
この手紙を椿が書いたころはまだ、余命宣告は受けていませんでした。
でも、感じていたのではないかと、そう思わせる文面…でも希望も見え隠れする文面…
どうだったのかはもう知ることはできませんが…。
でも、病気と共にここまで生き抜いた一人の少女のこの勇敢な気持ちを、知ってほしかったのです。
知った人がどう感じるか正直わかりませんでしたが、とにかく伝えたかったのです。
そのときの動画は椿が立ち上げたYouTube「椿チャンネル」に投稿しました。
夢半ばで旅立った椿の思いが誰かに届くことを願ってここに投稿しました。
よかったらこちらからご覧ください。
【椿ちゃんねる】
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2-9 ①発達障害とは?
2-10 ①命のカウントダウン
2-11 ①最期の14日間-1
3-1 ①病気と共にある生活とは
3-2 ①闘病と家族の在り方
3-3 ①医療との関わり
3-6 ①別の居場所
4-1 親子のやりとり