第3章3-3⑨医療との関わり
環境の変化
最近ではコロナ禍の経験も拍車をかけ、少しづつ小児の訪問診療も充実してきているところもあるようですが、椿が利用をはじめたころは、訪問医療(訪問診療・訪問看護・訪問薬局)自体、まだ小児に特化しているところがほとんどない状況でした。
椿が倉敷中央病院から紹介を受けた訪問診療も、小児の実績はありませんでした。
倉敷中央病院と訪問医療と家庭と本人とで、手さぐりで自宅でも安心して受けられる医療体制をいっしょに作りあげていったような感じでした。
椿は「病院」に対する絶対的信頼を持っている子でした。
椿にしたら生まれたときから、いつもどんなときも、しんどくなったら救ってくれる安泰(あんたい)の場所、それが「病院」です。
だからこそ、自宅で医療行為をするということに恐怖心があったようです。
でも、訪問の医療従事者たちは本人とも、わたしともたくさん話をしてくれました。
いつも一番に椿の気持ちを考えてくれ、しっかり相談して、ゆっくりと信頼関係を築きながらすすめてくれました。
そのお陰で、椿も心を開いて自宅でも安心して医療行為を受けられるようになっていきました。
1週間に1度は免疫を保つお薬(グロブリン)を点滴で投与しなければいけなかったのですが、皮下注射(ハイゼントラ)を自宅でも投与できるようになり、入院の間隔が2週間に1度になって、安定した生活を送れる様になっていきました。
毎週末、病院に行かなくてもよくなったことで、家族が一緒に過ごせる時間が増えました。
訪問診療を利用して感じたデメリット
わたしが訪問診療を利用して感じたデメリットとしては、拘束時間が増えたことと、関わる人が増えたことで伝達の手間が増えたことです。
さきほども話したように、訪問診療をはじめた当初は、倉敷中央病院へは1週間に1度1泊入院をしていました。
それに加え、2週間に1度の訪問診療+1週間に2度の訪問看護が増えました。
椿は自分に来客があることに喜んでいましたが、家に人が来てそれに対応することで家族の生活リズムが多少崩れました。
15時〜19時くらいの間の訪問が多く、慣れるまでは息子の迎えが遅くなったり、夜ごはんの支度が遅くなったりすることもありました。
しっかりコミュニケーションをとりながら診てくれる、訪問診療も訪問看護も1~2時間はかかりました。
はじめの頃は椿も緊張していて、わたしを介して会話をすることが多かったし、椿から「ママもそばにいてほしい」と要望があり同席するようにしていました。
でも、何度か診察を重ね、先生や看護師と信頼関係がしっかり築けてからは、わたしがいなくても平気になっていき、こちらも遠慮せずお願いできるようになっていきました。
なので、大事な用事があるときや、こちらから相談ごとがある時以外は、椿はひとりで診察や治療を受け、わたしは家の用事を優先して過ごせるようになり、バランスが取れるようになっていきました。
もともと気をつかったり、頼ることが苦手なタイプのわたしは、とても戸惑うことが多くありました。
本当にこちらの遠慮がなくなるにはだいたい1年弱はかかりました。
さらに、それまでは倉敷中央病院と学校とだけやり取りしていればよかったことが、倉敷中央病院、訪問診療、訪問看護、学校と4つに増えました。
病院同士、訪問医療同士がタイムリーに情報共有できていないときもあり、同じような内容の報告をあっちにもこっちに話していると、どこになにを話したのかわからなくなり混乱して疲れることもありました。
これについては各所に相談し、訪問医療は情報共有システムに登録して管理する様にしてくれました。
倉敷中央病院は情報管理の問題が厳しく、情報共有システムには参加できないそうで、その代わり先生同士が電話やメールなどで、頻繁(ひんぱん)に連絡を取り合い、連携を強化してくれたようでした。
また、学校との連携では、医療関係の連絡があるときは、倉敷中央病院のソーシャルワーカーが学校と連絡を取るようにしてくださったり、何度かカンファレンスを開いて情報を共有してくれました。
訪問診療だけでなく、訪問看護師も積極的に学校と連携を取る姿勢をとってくれたことで少しづつこちらの負担は緩和されました。
デメリットとして感じていたところは、利用回数を重ねて信頼関係ができたことで、我慢することなく正直に、各所に相談することができ、ひとつずつ解決していきました。
訪問診療を利用して感じたメリット
メリットは、やっぱり病院に出向かなくても家で待っていれば来てくれることです。
学校に登校したあとでも来てもらえることで、椿の生活もわたしの生活も自由度が増しました。
わたしが一番助かったのは、これ!
病院ではとりこぼしていた日常のささいな困りごとなども、自宅で過ごしているとタイムリーに出てくるので、相談しやすくなったことです。
お陰で、それまではふたりで抱え込んでいた「病院の外での困りごと」、椿が抱えていた不満や不安、わたしや家族の抱えていた不安や不満などが少しずつ軽減していったように思います。
これは、わたしにとってはすごくありがたいことでした。
いつも病院から一歩出てしまえば難病児の育児問題はわたしひとりで解決していかなくてはいけないことが多く、相談先がないに等しい状態でした。
これを一緒に考えてくれようと話を聞いてもらえたり、掛け合ってくれたり、情報をくれたことはとても心強くありがたかったです。
もっと早く介入してもらえていたら、いろんなことがもっとスムーズになっていたのではないかと思います。
そして、訪問診療のときに内服薬や、医療物品を処方してもらえるようになった事です。
それまでは、倉敷中央病院で処方してもらうことしかできなかったので、毎回退院の度に椿の荷物と内服薬と医療物品を一緒に持って帰るので荷物がかさばって大変でした。
でも、訪問診療が来てくれるようになってからは、訪問診療のタイミングで必要な医療用物品を自宅に持ってきてもらえるようになりました。
さらに、医療物品の管理も一緒にしてもらえたので、多すぎて余ったり、足りなくて困ったり、という困りごともなくなりました。
医療物品、内服薬、点滴などの処方が可能で、早ければ30分後には訪問薬局が自宅に届けてくれて、言わば『薬の宅配便』はとても助かりました。
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