第3章3-3⑥医療との関わり
付き添い入院の変化
小学5年生から長期入院が続き、長引く入院に付き添い入院が難しくなっていきました。
長期入院が続くことは、生活の基準をしっかり持って病気と付き合っていかなくてはいけないことだと改めて考えるキッカケになりました。
それまでは24時間付き添い入院必須だったのですが、余命宣告からの脱出劇を終えてから、今後の入院生活について「昼間は椿と病院で過ごし、夜間は椿を看護師にお任せし、私は家に帰りたい」と病棟に相談しました。
子どもたちにとって母親は私ひとりだけ。
息子が9ヶ月のときに乳児院に預けた過去の経験から、「子どもの1日のなかに母親といる時間を作ってあげたい」という考えを強く持っていました。
当時、病院内に治療ではなく患者の生活をサポートしてくれるソーシャルワーカーがまだ存在していませんでした。
そのかわり、それまでなかった入退院センターができ、入院中のサポートや退院後のサポートをしてくれる相談員が配置されるようになっていました。
偶然にも、椿の幼少期に小児科病棟の看護師として勤務していた方がサポートについてくれたお陰もあって、理解が深く、とても寄り添ってくれました。
それまでは、病院の中では守られていた「患者を第一に考える」という空気感から、なかなか自分の意思をはっきり言えなかっったところもありましたが、「息子のとの時間も大切にしたい」という私の考えを認めて、応援してくれている方がいることで安心して自分の意思を伝えることができました。
先生と看護師に相談したところ、病院から自宅が近かったので(車で10分)、「緊急の時はすぐに駆けつけること」を条件に、前向きに受け入れてくださいました。
本来なら、病院は患者の病気と心の安定を優先するべき場所です。
だから母の付き添いが必要だという考えもあると理解しています。
でも、各家庭それぞれ事情があります。
命はもちろん大切だし、椿には死というものが近いのかもしれないことは理解していました。
椿と過ごす人生も息子と過ごす人生も1回きりだから、どの瞬間も大切にしたいという私のわがままを聞き入れて協力してくださったことに、本当に感謝しています。
なにより、椿本人が「ひとりでも頑張ってみる」と言ってくれたからこそ、こうして新しいスタイルで過ごすことを、病院側に提案することができました。
本当はそばにいてほしいけど「お姉ちゃんだから」と、弟がさみしくないようにいつも気を強くもっていてくれた家族思いな椿は本当に立派でした。
心の成長と心の安定
こうして病院側が寄り添って、私がいない時間帯に椿と深く関わりを持ってくれたことで、椿の心の成長にも繋がったと感じます。
それまでは「ママがいるから大丈夫」「ママがいないと無理!」という感じでしたが、少しずつ自立も進み、思いやりもより深いものになっていきました。
看護師や先生との関係性も変化していきました。
それまでは母を介して先生や看護師と会話することが多かったのですが、自分のことだから自分で言わなければならない、自分が関わりを持たなければ伝わらないということを理解し、少しずつ椿自身が関わるようになっていきました。
看護師も先生も夜間をひとりで過ごし、病気と闘っている椿によくしてくださり、時間があるときには椿の様子を見にきてくれたり、いろんなお話をしてくださっていたようです。
院内で行われる行事にも先生や看護師が一緒に参加してくれました。
処置がある日は看護師が椿のためにシートに応援メッセージを描いてくれたりもしました。
「私がいなくても椿が安心して過ごせるように見守ってくれる、椿が信頼できてなんでも話せるような人をつけてほしい」とお願いしたところ、小学6年生のころから心理の先生がついてくれるようになりました。
ほとんどベッドの上で過ごしていた椿は、担当心理士の斎藤さんのことが大好きで、いくらしんどくても来てくれる時間が近づくとソワソワしはじめ、時間ばかり気にしていました。
斎藤さんが来てくれると歓喜をあらわに満面の笑みでお迎えしました。
いつも嬉しそうに一緒にゲームをしたり、食べ物の話をしたり、恋愛トークをしたり。
なんでも「うんうん」と聞いてくれ、「椿ちゃんはどうしたい?」と寄り添ってくれた斎藤さん。
椿にとっては親友のような、お姉さんのような存在だったのかもしれません。
保育士も合間に来てくれて、椿が作りたいといった自動販売機の作り方を調べてくれて、作り方の冊子まで作ってくれて、体調をみながらそれが完成する過程を楽しめるように一緒に工作してくれました。
病院のスタッフみんながそれぞれ椿の支えになってくれ、時に温かく時に厳しく、家族のように接してくれ、椿にとって安心の居場所となっていきました。
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