第2章2-9③発達障害の治療は支援?
発達障害の治療は「支援」だと言えます。
本人の頑張りも必要ですが、理解を深め、環境を整えることが重要です。
「わがまま」「自分勝手」「自己中心的」と思われやすい行動が起きてしまう原因を探って環境の改善をすることで、
そういう行動が減ってくることもあるということです。
学校での困りごと
以前、学校の学年主任から
「生徒が椿さんの手伝いや身の周りの助けを進んでしてくれています。
でも椿さんから「ありがとう」がなかなか言えないんです。
本人に聞けば「感謝はしているしお礼を言うつもりだったけど言うタイミングが無かった」と言うんです。」
と教えていただいたことがあります。
なにかしてもらったら「ありがとう」とすぐにお礼を言うべきですよね。
「タイミングがわからなくて言えなかった」こう聞いて「それは言い訳でしょ」と思う人もいると思います。
だけど、このとき彼女の頭の中は
『ASDの特性にある「コミュニケーションの苦手さ」で、お礼は言いたいけど言うタイミングがわからないことに困り、
タイミングを逃して言えなかった。
それを心の中ではすごく後悔していたけど、今度はADHDの特性でみられる「切り替えの早さ」で、
その出来事が頭のどこかに飛んでいってしまいリセットされてしまった。
だからこのときに「ありがとう」が言えないままになってしまった。
そう専門の先生に教えてもらうと、そのとき椿の頭の中で何が起きていたのか理解できて、
本人も特性のせいで困っていて、悪気はなかったのだと、少し寄り添った考えになりませんか?
だからといってお礼を言わなくていいわけではなく
「どうしたらお礼を言えるタイミングをつかめるか」
を本人がトレーニングする必要があります。
こういった様に、なにか行き違いが起きたときに、発達障害の人の頭の中を少し覗いてみることができると、
周りいる人に本人の考えを共有し理解してもらうことができるかもしれません。
本人の困りごとに気づき、気持ちに寄り添ってもらえることで、環境が整い「できるやり方」が見つかって、
お互いが同じ空間で安心して過ごせるようになるのだと思います。
ただ、これは周りの人の知識と理解がないと成り立たないことだと言えます。
だからひとりでも多くの人に発達障害について知っておいてほしいのです。
治療と実際
椿と一緒に発達障害について理解を深めようと本を買ってみたりしましたが、
訪問診療の先生からは「あまり資料にとらわれすぎず、椿ちゃんのペースでがんばりましょうね」と言われていました。
先に話したように、発達障害は他の病気のように発達障害だから「こういう症状がある」「こうすれば治る」と決まっているわけではなく、
それぞれに個性があり「特性」があります。
だからこそ、資料にとらわれず、本人に合った環境を用意し、無理のないペースで、本人に合ったやり方を見つけていくことが、
生活改善への道となります。
診断がついたから、本人が自分は発達障害だと知ったからといって急に何かが変わるわけではありません。
【参考:最新図解女性のADHDサポートブックP.45~46『ADHDの治療』
榊原洋一・高山恵子,株式会社ナツメ社,2019年12月2日初版】
椿も、治療をはじめたからといってすぐに改善することばかりではありませんでした。
基本的には本人が大きく変わることは難しいのだと思います。
障害と言われていますが、個性として捉え、本人の特性を理解し、環境を整えることから始めていきます。
『自分の「できるやり方」を見つけられると、できるようになる』そうです。
それが見つかるまで色々とやり方を変えながら取り組む必要がありました。
それでも、私たち家族はこれまでとは大きく違い、お互いに歩み寄りながら進めて行けることに楽しみや喜びを感じていました。
脳機能を根治させる方法はありませんが、環境調整を行ったり、認知行動療法を用いたりすることで、生活上の困難が軽減されます。
ADHDの人が苦手な部分を補うために、日常的に行っている工夫があれば、周りの家族や先生などが本人の困難をカバーするために環境を整えてくれるケースもあるかもしれません。
適応しようと努力している当事者を理解して協力できることをしていけるといいですね。
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2-9 ①発達障害とは?
③発達障害の治療は支援?
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2-11 ①最期の14日間-1