第2章2-9②本人に伝える
正式に発達障害の診断がついたあと、訪問診療の先生により発達障害の治療がはじまっていきました。
治療といっても、本人や家族の困りごとを相談して専門の知識から生活に合ったアドバイスをもらって試してみたり、
視野を広げたり、環境を変えてみたり、無理なく焦らず少しずつ、それはとても地道なものでした。
まずは、本人に伝えることからはじまりました。
本人に伝える
病院で診断がついても、すぐには本人に伝えませんでした。
このころ不登校になり、水分や塩分管理、自分の身の回りのことを含め、何度話し合っても上手くいかないことが続いていました。
発達障害だということを本人に伝えることで
「発達障害だからできなくても仕方ないんだ」
と開き直ってしまわないかと不安もあり、告知のタイミングは訪問診療の先生におまかせしました。
そして、告知の日、診察中に
「なんで伝わらないのだろう?なんで同じことばかりしてしまうのだろう?」
という母と娘から疑問が出たタイミングで、先生から本人に
「椿ちゃんが困っていることってADHDっていうものだと思うんだ」と話してもらいました。
そのあと発達障害の説明動画を観て「そうそう!椿も!一緒!」と納得し、自身の苦しみが理解され喜んでいる様子でした。
椿の脳内イメージ
脳内のイメージでよく言われる表現で、
「脳内には引き出しがあって必要な時に必要な情報だけ引き出せるような仕組み」が通常だとしたら、
椿の場合は「テレビ画面がいくつも並んでいて常に複数の画面に映像が流れ続けているような感じ。
情報が整理できず散漫している状態で非常に疲れやすい。
今必要な情報が見つけにくく、気分(話題)が変わりやすく、リセットされやすい」
状態だと言えるそうです。
訪問診療の先生にそう教えてもらい、納得することがたくさんありました。
万引きをしてしまったとき、水分をとりすぎてしまったとき、約束が守れなかったとき、
何か失敗したとき、勉強を教えても次の日には忘れていること、生活習慣全て、
何度教えても脳内でリセットされているのだとしたら…。
話が飛んでしまうことも多々あったし、切り替えが異常に早いというところも納得できます。
辛い処置を何度も、時に楽しみに受け続けてこられたのは、強靭(きょうじん)な精神力の持ち主だからだと思っていましたが、
このリセットの特性の助けもあって乗り越えられていたところもあるのだと思いました。
こうして、ひとつずつ娘のこれまでの行動と「特性」を答え合わせしていくと面白いほどに謎が解けていき、
娘も理解されることに喜び、家族との溝も埋まっていきました。
学習障害の診断はまだついていませんでしたが、娘の様子から判断するとこれにも該当していたと思われます。
「普通」の生活のなかで、苦しんで過ごしていることを、本人も周りも気づいて寄り添うことが大事だと感じました。
希望が見えた未来
きっと本人もこれまで「人との違い」に苦しんできたことでしょう。
上手くいかないのは心臓病のせいだと決めつけていたところもあり、
「なんで椿ばっかりしんどい思いせんといけんのん!」
「こんなからだいらない!」
「死にたい!」
と病気のせいにして嘆くこともありました。
病気のことは病院の先生にお任せするしかないこと、
だけど心のしんどさはどうにかしてやりたいと葛藤する日々の中、私も親として「生きづらさ」を感じていました。
だから「生きづらさ」の原因がひとつわかったことで、解決する術があるのかもしれないと希望を持てるようになりました。
それらを周りにも理解してもらえ、納得したかたちで寄り添ってもらえる未来はとても希望に満ちたものだったと思います。
もちろん本人の努力がなければ変われませんが、本人も困っていたのだと知ってもらえるだけで違ってくることはたくさんあったと想像します。
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