第2章2-8⑤発達障害と難治性腹水の治療の関係
うたがいはじめた中学1年生の2学期ごろから、約1年後に発達障害の診断がくだった椿。
「発達障害」というものに社会的リスクを感じて認めたくなかったり
逃げ出したくなったりすることもあるような問題でしたが
私たち家族にとってはその診断こそが再起動の要・・・希望の光となるはずでした。
発達障害発覚までのまとめ
発達障害と難治性腹水の治療の関係
これまでも何度か書いてきましたが、蛋白漏出性胃腸症(たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう)の
難治性腹水(なんちせいふくすい)の場合、飲んだ分だけ漏れ出てしまうため、水分管理が重要になってきます。
でも、椿はのどの乾きをがまんできず、制限があることによって「かくれて飲む」ようになっていきました。
親である私は、子どもの命を守るために「病院の先生から指示のあったことはきちんと守らせよう」と管理していました。
ですが、この当たり前のような『病気が悪化しないための治療方針』は、本人の心に寄り添えていなかったのだと気づかされました。
そこに辿り着くまでに家族でたくさんぶつかり合いました。
この水分摂取のコントロールがうまくいっていれば、もう少し違う未来があったのではないかと今でも考えます。
難治性腹水においてはそれだけ、水分コントロールが非常に重要だということです。
水分を制限するようになってから、水分をとるときは目盛りのついたコップ、目盛りのついた水筒を使うようにしていました。
本人はもちろん、周囲のみんなの目に見えるかたちで管理、共有できるようにしていました。
小学5年生からこの生活を続けてきましたが、
中学1年生のとき、年齢的にも「自分で管理できるようにならないと困るのは自分」と自覚してもらうために、
椿が自分で水分管理をするようにしていきました。
自分で管理といっても放任するわけではなく、どのくらい飲んでいるのか、確認は一緒にできるようにしていました。
椿はお茶しか飲まなかったので、1日の量を決めて椿用のお茶を作って椿用の容器に入れておいておくようにしました。
大体1時間ごとに50㏄ずつ飲む計算で管理し、飲んでいる量を把握していました。
椿専用の容器を用意することで、飲みすぎると足りなくなるのですぐにわかりました。
主治医からは、どうしても我慢できないときは口をゆすいだり、氷を舐めたりするように勧められ実践していましたが、
「氷なら大丈夫なんだ」と間違った認識をして、だんだんと氷を摂取する量が増えるようになっていきました。
少しづつ我慢をすることが難しくなってきて、行動がエスカレートし水道水も飲むようになっていきました。
こうなると、どれだけ飲んだのか把握することはできなくなります。
本人が「飲んでいない」と否定したとしても、むくんでいる顔や腹水ではっているお腹を見ると、
飲みすぎたのだとすぐにわかりました。
そして、「しんどいから病院に連れて行って」と言うのです。
病院に行っても、できる治療に限りがある病気です。
どうしようもないこともあるのです。
「水分をとり過ぎると自分がすぐにしんどくなるのがわかっているのになんで決まりが守れないの?」
「こんなことを続けていると椿のからだがもたないよ。」
「椿が一番わかってるんじゃないの?」
「ちゃんと決まりを守らないと、体がしんどくなっていって死ぬのが早くなってしまうかもしれないよ。」
と、今起きている事実とこの先に起こるかもしれない未来を結びつけ、危機感を持てるように少しきつめに伝える日もありました。
この事実と起こるかもしれない未来を口にすることは、私にとっても椿にとっても辛い現実で、よく泣きながら話をしました。
水分制限が守れていないことは病院でも周知されていて、私がいない時間帯は看護師と一緒に水分を管理していたのですが、
病院でもすきをみて水道水を飲むようになっていきました。
椿は看護師ともぶつかり合い、話し合いをする時間が増えました。
「かくれてコソコソせずに飲みたいなら言ってほしい」と言っても、「言ったって飲ませてくれないじゃん!」と返ってきます。
ガブガブ飲んでいいよとは言ってあげられないけど、少し調整することはできます。
でも、娘は『管理されていること』にうんざりしていました。
主治医からの『病気の授業』
中学2年生の5月頃ごろから本格的に不登校になっていった経緯もあり、
主治医にも相談し
「このままでは自分の命をけずってしまうばかり。椿に自分の病気のこと、今自分の体に起こっていることを知ってほしい。
私から伝えているけど理解しているようにみえない。専門の先生からきちんと病気の説明をしてほしい」
とお願いしたところ快く了承してくださいました。
お忙しいなか椿のために時間を作り、入院の度に少しずつ『病気の授業』をして下さいました。
これをキッカケに椿自身も自分の病気のこと、自分自身のことを深く考えるようになっていきました。
そして、これまでの『病気が悪化しないための治療方針』から、椿がどのくらい水分を摂りたいかを確認しながら
本人の想いを積極的に取り入れた『本人の心に寄り添った治療方針』に変わっていきました。
そうして過ごすなか、2020年、中学2年生の夏休みに万引き問題が起きました。
それを受けて9月に発達障害の診断がつきました。
発達障害の診断がついたあと、発達障害の支援は訪問診療の先生が専門分野であったこと、
自宅での様子も共有しやすいということもあり、訪問診療の先生にしていただきました。
色々と連携が取れるようになり本人が納得し、無理なくがんばれる方法で水分管理ができるように、
椿と医療チームと家族が同じ方向を向いて進んでいけるようになりました。
それまでは度重なる水分の過剰摂取問題に「命に関わることなのになんで何度言ってもわからないのか?」
と怒ってしまっていたのですが、本人も困っていたのだと気がつきました。
「なんでやめられないのか」の答えは「後先を考えられない」「自分の欲求を抑えられなくなる」
というADHDの特性でもあったからだと知ることができました。
もっと早い段階で『発達障害のため椿にはそういった特性がある』ということがわかっていたら
「なんでわからないのか」と椿を責めるような言い方はしなかっただろうし、
椿の捉え方を理解しようと寄り添えただろうし、水分管理の方法もまた違った方法で一緒に考えて進めていけたのではないかと、
もうそこまで来てしまっている椿のからだの限界を感じながら、後悔しました。
先天性心疾患と発達障害の併発
椿が発達障害だと診断がついてから自分で調べていて知ったのですが、心臓病の子は発達障害を併発しやすいという事実がありました。
椿が先天性心疾患で産まれてから、つい最近まで知らずに過ごしてきて、椿をがんばらせ過ぎていたのかもしれない、
もっと違う関わり方ができたのかもしれないと思うと、無知である自分が情けなかったです。
だから、先天性心疾患者のお子さんは、発達障害の可能性があるかもしれないという事実を知っていてほしいです。
診断がつくことで「生きやすく」なることもあると思います。
【関連記事】
2-8 ①発達障害発覚までの経緯-1
⑤発達障害と難治性腹水の治療の関係
2-9 ①発達障害とは?
2-10 ①命のカウントダウン
2-11 ①最期の14日間-1