第2章2-5 ①フォンタン手術と術前治療
先天性心疾患が発覚して病気の説明を受けたときに聞いていた「段階を経てする手術」
1.総肺静脈還流異常症の手術(違う場所につながっていた血管を正常な場所に戻す手術)
2.グレン手術(上大静脈(上半身から帰ってくる血液)と肺動脈をつなげる手術)
3.フォンタン手術(下大静脈を心房から切り離して肺動脈と繋ぐ手術)
ついに最終段階までたどり着き、フォンタン手術に向けて準備がはじまりました。
フォンタン手術はもちろん、フォンタン手術を万全の体制で行うための検査や治療も大変でした。
フォンタン手術へ向けて準備開始
グレン手術後の合併症、乳び胸との闘いは長く続き、辛い治療に苦しみましたが1歳2ヶ月ごろには見事回復し、
自宅で過ごせる時間が増えました。
基本的に、月に1回の通院外来と入院は倉敷中央病院がかかりつけでした。
大きな手術は岡山大学病院で行われます。
その当時から、倉敷中央病院と岡山大学病院は連携体制が整っていて定期的にカンファレンスで情報共有がされていました。
段階を経て行うフォンタン手術に向けて準備が始まっていきました。
椿のカルテ03
〇カテーテル検査
心臓カテーテル検査とは、心臓や血管に直径約2mmの細い管(カテーテル)を心臓に血液を供給している
冠動脈の入り口まで通し、冠動脈内に造影剤を流し込みX線撮影をします。
血液の流れをリアルタイムに見ることができ、冠動脈に細い部分や詰まっている部分があるか、
また血管のどの場所にあるのか、さらにどのくらい細くなっているのかを正確に把握することができます。
〇アブレーション治療
アブレーション治療用のカテーテルを太ももの付け根から血管を通じて心臓に挿入し、
カテーテル先端から高周波電流を流して焼灼(しょうしゃく)することで、不整脈を根治します。
処置中に不整脈が起こらない場合は、場所を特定できないため焼灼(しょうしゃく)ができず断念することになります。
2018.2.20 岡山大学病院にて3度目の手術を受ける
★フォンタン手術
→下大静脈を心房から切り離して肺動脈と繋ぐ手術
◎フォンタン循環とは:全身→肺動脈→肺→肺静脈→心房→心室→全身
※肺動脈と心臓の連結がなくなる
★三尖弁形成術
→弁狭窄解消
2018.3.15 岡山大学病院にて4度目の手術を受ける
★ぺースメーカー埋め込み手術
→左下腹部に皮膚ポケットを作り、ペースメーカーを埋め込む手術
※内服薬で脈が下がりすぎた場合に補助をする役割として使用
子どもにとっては過酷なカテーテル検査
1歳6ヶ月の頃、1泊2日のカテーテル検査を初めて経験しました。
カテーテル検査前に病棟で鎮静をかけて挑みますが、鎮静をかけるために数時間前から絶飲絶食を強いられます。
検査が1番目のときはまだいいのですが、2番目、3番目になると前の検査が長引けば長引いた分、
絶飲絶食の時間も延びていくので我慢の時間が長く続きました。
検査後は鎮静(ちんせい)などによる気持ち悪さ、カテーテルを挿入した脚の付根部分の止血のための圧迫と、
その圧迫部分を板状のもので支えてしっかり固定されていて6時間は曲げてはいけない(立つことができない)ため
ベッド上でじっとしていなければいけないことが苦痛でした。
固定部分を曲げないようにオムツ替えをするのも大変でした。
大きくなってからはオムツをしなければいけないということ自体が恥ずかしく苦痛でした。
オムツではなく小型差し込み便器も利用してみたこともありましたが、
おしりを浮かせて便器を入れ込むことが痛みをともなったり、尿が便器に入らなかったり、苦戦して断念しました。
椿にとってはテープをはがす時が一番の苦痛でした。
固定しているテープは圧迫がしっかりできていないと出血の恐れがあるため強力なテープが使われていました。
皮膚が薄い椿はそのテープをはがす時に薄皮が一緒にはがれてしまうこともありました。
看護師が皮膚用リムーバーを使いながら丁寧にゆっくりはがしてくれるのですが、椿はそれでも泣き叫び、
テープをはがし終えたあとの皮膚は痛々しくまっ赤になっていました。
黒ずんだテープの後は何週間も残りました。
この検査は何度も経験することになりましたが、そのたびにいろんな苦痛に絶え、
年齢が上がるほどに記憶にも残るようになり恐怖心も増しました。
それでもしなくてはならない検査でした。
本当によく頑張りました。
できなかったアブレーション治療
フォンタン手術をする前に、これまで脈拍数が跳ね上がる発作がおきていた頻拍(ひんぱく)の対処として、
不整脈の治療であるアブレーション治療を受けるように主治医から指示がありました。
1歳11ヶ月の頃、椿は生まれて初めて新幹線に乗り、ちょっとした旅行気分で和歌山赤十字病院まで行きました。
でも、予定していた1週間の入院期間中に不整脈の兆候が現れず、治療ができないまま帰宅しました。
このとき、アブレーション治療がうまくいき不整脈の根治ができていたら、また違う未来があったのかもしれません。
予定していたフォンタン手術と予定していなかったペースメーカー埋め込み手術
そして、椿の先天性心疾患が単心室症だとわかったときに説明を受けていた、
段階を経てする最後の手術となるフォンタン手術を、倉敷中央病院と岡山大学病院の連携により計画的に受ける運びになりました。
2歳3ヶ月のころ、手術予定の1ヶ月前から岡山大学病院の小児循環器専用の病棟に入院し、手術の時を待ちました。
2歳4ヶ月でフォンタン手術を受け無事に成功しましたが、術後に頻拍(ひんぱく)になりました。
その1ヶ月後に予定していなかったペースメーカーを入れる手術を受けました。
その後、また乳び胸になり前回同様、食事制限・水分制限・胸腔穿刺(きょうくうせんし)の治療をがんばり、
約3ヶ月後に完治し退院することができました。
フォンタン手術が完了し、これで予定していた心臓に対する手術はすべて終わりました。
フォンタン手術後は酸素飽和度が96%まで回復し、顔色もよくなり、大きな問題もなく椿のペースでのんびりと順調に成長していきました。
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