第3章3-5④教育との関わり
病気の進行
順調に見えた椿のからだを徐々にむしばんできた病魔がついに顔を出したのは、小学5年生のころでした。
それまでくすぶっていた蛋白漏出性胃腸症が、腹水という目に見えるカタチで現れました。
小学5年生の夏休みにだいぶたまってきた腹水を一度抜くことになりました。
そのあとしばらくはまた学校へ通い、快調に生活していました。
でも、またしんどくなり、はじめて腹水を抜いてから3週間後には同じ量の腹水がたまってきて抜かなくてはならないようになりました。
その後は、週に1度学校を休んで腹水を抜くようになっていきました。
1週間のペースでたまってくる腹水の量は、だんだんと増え約2000ccになりました。
腹部が2㎏分大きくなり、生活にもたくさんの支障が出てきました。
学校では以前からしんどかった階段が更にしんどいものになりました。
腹水がたまる過程で起こる症状として、気持ち悪さ、だるさ、頭痛、体温調整ができないなど、さまざまな体調不良をともないました。
本人は学校に行きたいから行くのですが、学校に行っても保健室で過ごす時間が増え、学校に行ける頻度は少しずつ減っていきました。
学校の方では本人と相談しながら、受けたい授業を調整して受けられるように配慮してくれて、なるべく保健室で休めるようにしてくれました。
そして、11月に病状が急激に悪化し余命宣告を受け入院生活が続き、しばらく学校に通えなくなりました。
院内学級の利用
余命宣告から奇跡の回復を成し遂げた1月末頃、長期入院が続き、力なく生きていた椿に主治医が「つばちゃん、院内学級行ってみる?」と声をかけてくれました。
院内学級へ通うには、医師の許可と保護者の申し出と学校との連携で転級手続きが必要です。
一定の入院期間がないと転級できません。
椿は1ヶ月以上の入院のときに院内学級が利用できると説明を受けました。
倉敷中央病院の院内学級では小学部と中学部が各一部屋ずつ、教員も一人ずついます。
複数の学年の違う生徒をひとりの先生がみてくれていました。
でも、先生はひとりずつ丁寧に関わってくださいました。
椿も体調の良い日に少しずつ顔を出すことにしました。
初めの頃は椿が不安がるのでわたしも付き添いで一緒に過ごしました。
初めから勉強に取り組むことはしませんでした。
まずは雰囲気に慣れるために遊びからはじめました。
アイロンビーズや折り紙、プラパン作りなど、楽しい活動をしてくれました。
まずは『教室に足を運べる気持ち』から育み直してくれるのです。
ときにはみんなでUNOをして遊んだりもしました。
椿にとってははじめての場所で緊張もしていたし、からだのしんどさもあり、その雰囲気に馴染むのに少し時間はかかりました。
でも、そこにいる生徒たちも大変な病気と闘っていてしんどい思いをしているのにも関わらず、みんな笑顔で、椿にもとても優しくしてくれたのです。
椿もみるみる元気を取り戻し笑顔が多くなっていきました。
本当は病気で死にかけて、しんどくて、これから先も辛い治療が続くことにうんざりし、生気を失っているようでした。
だけど自分と同じように病気と共に頑張って生きている仲間がいることに元気と勇気をもらえたようでした。
この院内学級での時間は椿にとって間違いなく「生きるチカラ」になりました。
もっと臨機応変な対応を期待
椿が院内学級に通っていた当時は、1ヶ月間以上入院していないと院内学級には通えないという話でした。
椿は入退院を繰り返していて体調によっては学校に行けない日もありました。
学習意欲の継続のためと居場所の確保のためにも「1日入院でも院内学級に切り替えられるシステムにしてもらえないか」と、主治医が当時の小学校の校長先生に掛け合ってくれたことがあります。
ですが、学校の権限ではなく、市教委が決定することで現在の規則的には難しいと返答がありました。
結局、椿本人が学校へ行きたいという意思がうすくなっていたこともあり、学校側とそれ以上話をすることもなく終わってしまいました。
このときもっと動いていれば院内学級に自由に通える幅が増え、病気と闘う子どもたちの居場所として気持ちを共有できるよりどころを確保できる未来もあったかもしれません。
闘病する子どもたちは1日の過ごし方で病状が改善することもあり得ると思います。
子どもが友人・仲間から得られるエネルギーは何よりのお薬だと、椿の闘病生活から感じました。
そういう居場所を少しでも絶やさず繋げてあげたいです。
闘病を支える家族の意見としては、院内学級の利用に関して、もっと柔軟な利用制度を求めます。
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2-10 ①命のカウントダウン
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3-1 ①病気と共にある生活とは
3-2 ①闘病と家族の在り方
3-3 ①医療との関わり
④教育との関わり
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